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大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)1114号 判決

控訴人 浜田正夫

被控訴人 藤田俊雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、被控訴人は控訴人に対し、控訴人がなす訴外武田一平の承継人藤田正に対する原判決添附第二目録記載の物件につき姫路簡易裁判所昭和二八年(イ)第三八号建物収去土地明渡和解申立事件の執行力ある正本に基く建物収去土地明渡の強制執行及び神戸地方裁判所姫路支部昭和三〇年(サ)第三九号建物収去命令に基く右同目録記載の建物の取毀の執行に対してこれを認容せねばならない、との判決並びに末項について仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において被控訴人の子藤田正は、本件和解調書正本に対する執行文付与に対する異議の訴(姫路簡易裁判所昭和三〇年(ハ)第四〇号)において、敗訴の確定判決を受けているので、同判決に服しなければならないところ、被控訴人は同人の世帯主として世帯員たる同人所有の本件家屋に居住しているものである以上、同家屋に対する本件強制執行を妨害しうべきものではなく、これを認容すべきものである、と述べ、被控訴代理人において、執行文付与に対する異議の訴の確定判決の存在は、被控訴人の本訴請求について既判力の抗弁を許すべきものではない、ことに本件債務名義の基本たる和解調書は、控訴人と訴外武田一平間の、建物所有のための土地使用権を目的とするもので、建物の所有権自体を目的とするものではないのに反し、本訴は家屋の所有権を目的とするものであるから、控訴人の既判力の抗弁は許されないと述べ、立証として被控訴代理人は、当審における被控訴人の本人尋問の結果を援用した外すべて原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

当裁判所は次の理由を附加するほか原判決の理由をここに引用する。すなわち、

特定物の引渡や特定の土地の明渡請求にあつては、第三者異議の訴は、債権者において、執行力ある正本の付与を得ている以上、目的物件に対する強制執行開始の有無に関せず、適法にこれを提起し得るものと解するのを相当とするから、控訴人において本件土地の明渡につき、すでに執行文の付与を得て執行に着手せんとしたことにつき、当事者間に争のない本件においては、控訴人において執行を開始したかどうかを判断するまでもなく本訴請求の適法なことは明かである。

またある債務名義についての執行文付与に対する異議の訴において、債務者がすでに敗訴の確定判決を受けていることは、第三者において、債権者が同債務名義に基き特定の目的物に対し強制執行しようとすることの排除を求めることを目的とする第三者異議の訴に対し何等既判力を及ぼすいわれはない。けだし、前者の訴においては、債務者の主張する、執行文付与の際証明したものと認められた債務名義がそれ自体の内容によつて執行力の発生をかからしめているところの条件の成否に関する紛争またわ認められた承継の事実の存否に関する紛争が訴訟物であるのに反し、後者の訴にあつては、すでに執行力発生条件の完備した債務名義に基く執行にあたり第三者の主張する「執行の目的物につき譲渡もしくわ引渡を妨げる権利」の存否に関する紛争が、その訴訟物であつて、両者は、すでにその一方の当事者を異にするのみならず、その性質においても、全く別異のものであることが明かであるからである。

そして原判決挙示の証拠に、当審における被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は控訴人から本件係争の土地を賃借して、適法にこれを占有しまた建物についても所有名義人たる藤田正の意思に反せず之を占有していることを肯認するに難くない以上、被控訴人は、控訴人が、本件和解調書の執行力ある正本に基き、藤田正を債務者の特定承継人としてこれに対してなさんとする強制執行の目的物たる本件係争土地について引渡を妨げる権利を有するものといわねばならないことが明かであるから、控訴人が前記執行力ある債務名義の正本に基いて、原判決添付第一目録記載の不動産に対してなす強制執行は、被控訴人に対する関係においてこれを許さず、これと同趣旨に出た原判決は結局相当で、本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三八四条第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 藤城虎雄 亀井左取 坂口公男)

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